の折詰を持った手で、傘《かさ》を持ってる手の下をさぐってみたが何物も居《い》ない、こいつまた何かござったなと、早速《さっそく》気がついたので、私はまた御陵《みささぎ》の石段へどっかと腰を下ろして怒号ったのだ、
「己《おれ》は貴様達に負ける男ではないから、閉口して、己《おれ》が今この折詰のお馳走を召上《めしあ》がるところを、拝見しろ」
 といいながら、それを開けて、蒲鉾の撮食《つまみぐい》だの、鯛の骨しゃぶりを初めて、やがて、すっかり、食い終《おわ》ったので、
「折でも食え」
 と投出《なげだ》して、やおら、起《た》って、また傘《かさ》をさして歩み出したが、最早《もう》何事もなく家に帰った、昔からも、よくいうが、こんな場合には、気を確《たしか》に持つことが、全く肝要の事だろうよ。



底本:「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」ちくま文庫、筑摩書房
   2007(平成19)年7月10日第1刷発行
底本の親本:「怪談会」柏舎書楼
   1909(明治42)年発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2008年9月22日作成
青空文庫作成ファイル:
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