い》に私は一日の閑《かん》を得たので、二三の兵卒を同道して、初対面のこの大伯父の寺を訪れたのである。老僧は八十有余の善智識《ぜんちしき》であって、最早《もう》五十年来、この寺の住職である。初対面の私を種々《しゅしゅ》厚遇してくれて、さて四方山《よもやま》の談話《はなし》の末に老僧がいうには、「お前|達《だち》は、まだ齢《とし》若い血気の少年であるから、幽霊などがあるといったら、一概に貶《けな》すことだろうが、しかしそうばかりではなくこの世には、実に不思議なことが往々《おうおう》にしてあるものだから、今私がお前|達《だち》にも談《はな》してきかせよう」と如意《にょい》片手に、白髯《しらひげ》長きこの老僧が、改《あらたま》って物語る談話《はなし》を聞けば、こうである。
「それは、まだ自分がこの寺の住職になってから、三四年の後《のち》のことであった、自分もその時分は三十前後のことだったが、冬のことで、ふと或《ある》晩、庫裏《くり》の大戸《おおと》を叩いて訪れるものがある、寺男は最早《もはや》寐《ね》ていたが、その音に眼を覚まして、寝ぼけ眼をこすりこすり戸を開けて見ると驚いた、近所に稀《ま》れ
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