な、盛装した、十八九の娘が立っていて、方丈の私に是非《ぜひ》会いたいというのであった。寺男も、この冬の晩遅くそんな女が、私に会いに来たのだから、余程、不思議に思って、急いで私の居間に来て、その由《よし》を告げた。私は少し思う所があったので、早速、その頃寺に居た徒弟共を一室《ひとま》に集めて、さて静かにいうには、今当山に訪れたものは、お前|達《だち》も兼《かね》て知っておる通り、この一七日前に当山に於て葬礼の式を行った、新仏《しんぼとけ》の○○村の豪家《ごうか》○○氏の娘の霊である、何か故《ゆえ》のあって、今宵《こよい》娘の霊が来たのであろうから、お前|達《だち》も後々《のちのち》の為《た》めに窃《ひそ》かにこれを見ておけと告げて、彼等徒弟は、そっと一室《ひとま》に隠れさしておき、寺男には、その娘に、中門《ちゅうもん》の庭より私の居間へ入来《はいりく》る様に命じてやった。私は直《すぐ》に起《た》ってそこの廊下の雨戸を一枚|明《あ》けて、立って待っておると戸外《おもて》は朧《おぼろ》の夜で庭の面《おも》にはもう薄雪の一面に降っていた。やがて中門《ちゅうもん》より、庭の柴折戸《しおりど》を静
前へ 次へ
全10ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
鈴木 鼓村 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング