ょろう》の談《はなし》だの、同山の一部である猫魔山《ねこまやま》の古い伝説等は、吾々をして、一層《いっそう》凄い感を起《おこ》さしたのである。
 そして、この檜原の宿《しゅく》とても、土地の人から聞くと、つい昨年までは、その眼の前に見える湖の下にあったものが、当時、上から替地《かえち》を、元の山宿《やましゅく》であった絶項の峠の上に当《あた》る、この地に貰って、漸《ようや》くに人々が立退《たちの》いたとのことである。
 吾々は、次《つ》ぎの日に、この新らしき湖を、分隊|毎《ごと》に分れて、渉《わた》ったが、この時の絶景といったら、実に筆紙《ひつし》にも尽《つく》し難い、仰向いて見れば、四方の山々の樹々が皆|錦《にしき》を飾って、それが今|渉《わた》っている、真青に澄切ってる、この湖に映じて、如何《いか》な風流気のない唐変木《とうへんぼく》も、思わず呀《あっ》と叫ばずにはおられない、よく談話《はなし》にきく、瑞西《すいつる》のゲネパ湖の景《けい》も、斯《か》くやと思われたのであった、何様《なにさま》、新湖《しんこ》のこととて、未《ま》だ生々しいところが、往々《おうおう》にして見える、船頭
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