旬、東北地方は既に厳霜凄風《げんそうせいふう》に搏《う》たれて、ただ見る万山《ばんざん》の紅葉は宛《さなが》らに錦繍《きんしゅう》を列《つらぬ》るが如く、到処秋景惨憺《いたるところしゅうけいさんたん》として、蕭殺《しょうざつ》の気が四隣《あたり》に充《み》ちている候《こう》であった、殊《こと》にこの地は東北に師団を置きて以来、吾々が初めて通る難路のことであるから、一層《いっそう》に吾々の好奇心を喚起《よびおこ》したのであった。第一、この会津地方には一般怪談の如きは乏《とぼ》しくない、殊《こと》に前年|即《すなわ》ち明治|廿一《にじゅういち》年七月十五日には、かの磐梯山が噴火して、為《た》めに、そのすぐ下に横たわる猪苗代湖《いなわしろこ》に注ぐ、長瀬川《ながせがわ》の上流を、熔岩《ラバー》を以《もっ》て閉じた為《た》めに、ここに秋元湖《しゅうげんこ》檜原湖と称する、数里にわたる新らしい湖を谿谷《けいこく》の間に現出した、その一年後のことであるから、吾々の眼にふるる処《ところ》、何《いず》れも当時の惨状を想像されない処《ところ》はなかった、且《か》つその山麓の諸温泉には、例の雪女郎《ゆきじ
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