七年半ぐらゐ、蛙はまづ十五年ぐらゐ、蝙蝠は三十年ぐらゐ、鹿は六十年ぐらゐ。この話をきかせた人は、はてな、鹿ではなく、鷲だつたかもしれないよ、と言つた。
 中国の美しい織物やじうたんには、いつでも蝙蝠が現はされてゐる。福[#「福」に傍点]といふ字の連想からかそれとも別の伝説があるのか、いろいろさまざまの色で模様化された蝙蝠が典雅な富貴な姿に現はされてゐる。中国の蝙蝠は福であり、うらぎりものユダの連想なぞとはおよそ天地の遠さよりも、もつと遠いものであらう。日本では、蝙蝠はうらぎりものでもなく、めでたい福でもなく、ただ実在の夏の生物として夕涼みのとりあはせ位に思はれてゐるが、善でも悪でもなく、美でも醜でもないやうである。たぶん虫めがねで見たら醜怪な姿のものかもしれない。この世に蝙蝠はゐてもよろしいが、無くてもけつこうである。



底本:「燈火節」月曜社
   2004(平成16)年11月30日第1刷発行
底本の親本:「燈火節」暮しの手帖社
   1953(昭和28)年6月
入力:竹内美佐子
校正:林 幸雄
2009年8月17日作成
青空文庫作成ファイル:
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