てゆく時のやうに、青と白の色が蝙蝠の体から消えて行つた。蝙蝠はめくらになり黒い体になつてぱたぱた飛んで、折しも迫る夜の中にとび入り、暗黒《くらやみ》の中に永久に溺れてしまつた。それからは黄昏と夜の世界にだけ彼はあてもなく旋回しながら飛びまはり「なんと私は眼が見えない! 私のみにくさを見てくれ!」と、ほそいほそいかすれた声で鳴くのである。
その同じ話し手から聞いたことでは、蝙蝠は雷のために枯れた樹と稲妻とのあひだに生れた子供であるさうだ。又もう一つ聞いた名は「誇り高き父の畸形児」といふので、誇り高き父は、誇り高く花々しい天使、「悪の父」サタンである。なぜ蝙蝠がサタンの畸形児であるかといへば、それもまた御苦難にまつはる物語である。ユダが裏切をしたあとで樹の枝でくびれ死ぬと、ユダの魂が歎きなげき風に乗つてさまよひ出た、すると「誇り高き父」はそのみじめな魂をさげすみ切つてこの世に投げ返してよこした。しかし、投げ返す前に「誇り高き父」はその卑しいものをひねり曲げ幾たびもひねり曲げ、四百四十四回ひねり変へたので、それは人間でもなく鳥でもない、けものでもない、何よりも、卑しい鼠にいちばんよく似てゐ
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