たりはひろびろとみちのく[#「みちのく」に傍点]ぶりの世界を見せてゐた。三時間くらゐ乗つてさびしい平泉の駅に降りた。バスがあるのでじきにお山まで行くことが出来たが、昔の旅びとは途中だけで疲れてしまつたらう。
 物古りた杉の路をのぼるのである、かなり急な坂道で私はうしろからFに腰を押し上げてもらつた。のぼりきつてしまふと、杉はすくなくなり、大きなもみぢの葉がひらりひらりと散つて中尊寺の御本堂の前は明るい平地であつた。大きな茶店では絵はがきを売つてゐた。山の入口で案内者を頼んだので私たちは安心して山の中を歩きまはり金堂の前に出た。
 金堂は素朴なちひさなお堂で、優雅なものだつた。宝の壺の中にひそむ古い香のにほひを嗅ぐやうに、古い古い事を考へてゐると、もろこしから伝へられて来た黄金文字の経文、三代の勇将たちのお骨を守つてゐる仏の御像、さういふ物のもつと裏の、もつと奥深いところに隠されたみちのく[#「みちのく」に傍点]藤原族のたくましい夢と救はれがたい悲願とは千年のちに生れた者の心にまで突きとほる。うろ覚えの歴史を考へてみても、一人の武将義経なぞのためにこの東北王の家がほろびたことはもつたいな
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