行くところは西洋の田舎の気分であつた。(西洋の田舎も都会もまのあたり見たことはないけれど)パークホテルは清らかなアットホームの感じで、たいそう行き届いてゐた。お昼ををはつてから海岸に出て真白な貝がらを敷きつめた路を歩いてゆくと、踏むたびにぴちぴち、ぴちぴち音がした。ここで見る松島ははつきりと青く、どの島にも幾本かの松が立つてゐて、海は写真の海みたいに平らかで、ただ太陽の光だけが実在の島々を見せてくれた。
 赤い橋が通じてゐる一ばん近い島に行つてみた。わりあひに広い島で、うねり廻つてゐる道は昔のむかしから踏み慣されてゐて歩きよい。崖には芒がいつぱい茂つて、どこを曲がつてもどこを昇つて行つても、すぐ側が海である。大きな掛茶屋にはお茶がぐらぐら煮えて、パンうで玉子が並べてあり、誰でも誘はれさうに見えた。とある崖ぶちの芒の根もとに男女二人が腰を下して何か話をしてゐた。二人とも青じろい顔をして不断着のままのやうで、女の方は髪も乱れてゐた。仙台あたりから来た人らしく、学生や女学生といふよりずつと年をとつて三十近く見えたが、非常に疲れきつた姿で、すべてどんづまりといふ表情をしてゐた。そこを通りすぎて
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