Cと二人で行つて見た。お役所といひたいやうな広いいかめしいお庭で、門をはいつて一ばん初めのところに猿たちがゐる、複数も複数、たいへんな複数で、とてもおびただしい猿たちがひろい金網の区ぎりの中でのんきににんじんを食べ、蚤の取りつこをしたり、林檎の皮をむいたりしてゐる。「猿が島」と呼ばれてゐたさうである。上野にゐる生きものたちと同じやうにこの庭にも沢山の住み手がゐて、象だけはゐないが、ほかの動物仲間は大ていゐた。虎は二ひき、虎らしく動いてゐた。少し離れた大きな檻にライオンがゐた。広瀬川がざつざつと流れるその音にいちばん近い場所で彼は秋日の中にひるねしてゐた。何もかもつまらなさうな、あきらめてゐるやうな姿でもあつた。熊もゐた。熊もつまらなさうだが、それでも何か期待《あて》があるやうに歩いて人間をながめる。猿ではじまり、いちばんおつめのところがペルシヤ猫の仲間である。元来私は猫が好きなのだが、ペルシヤ猫は何か暗いものを持つてゐるやうで親しめない、その立派な長い毛、短かい脚、すばらしくふさふさした長いしつぽ、野の物の荒い表情を持つ眼の光、……私には、ペルシヤ猫は人間とはまるで別な世界の独立したけ
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