私の一生の卦《け》は「地水帥《ちすいし》」が出るのではないかと心に占つてゐた時、意外にも答へは「地山謙《ちざんけん》」であつた。私はおもはずあつと驚いて、頭を打たれたやうに感じたのである。
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「謙《けん》は亨《とほ》る。君子終り有り吉《きつ》。○彖伝《たんでん》に曰く、天道は下《くだ》り済《な》して光明。地道は卑《いやし》くして上行す。天道は盈《みつ》るを虧《か》きて謙に益《ま》し、地道は盈るを変へて謙に流《なが》し、鬼神は盈るを害して謙に福《さいは》ひし、人道は盈るを悪みて謙を好む。謙は尊くして光り、卑《いやし》くして踰《こ》ゆべからず。君子の終りなり。」
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謙は却ち謙遜、謙譲の謙《けん》で、へりくだることである。高きに在るはづの艮《ごん》の山が、低きに居るべき坤《こん》の地の下に在るのである。たぶん私は一生のあひだ地の下にうづくまつてゐなければならない。「労謙す、君子終り有り吉」といふのは地山謙の主爻《しゆかう》の言葉である。頭を高く上げることなく、謙遜の心を以て一生うづもれて働らき、無事に平和に死ねるのであると解釈した。何よりも「終
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