大へび小へび
片山廣子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)劫《ごふ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)勇将|田道《たぢ》
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日本では蛇の昔ばなしがたくさんあるが、アイルランドの伝説にも蛇が多いやうである。同じやうに島国のせゐかもしれない。初めに私が読んだのはごく太古のこと、北方の山の湖水に劫《ごふ》を経た大蛇が、将来えらい人がこの国に来て蛇族全部を退治してしまふといふ予言をきいたので、さういふ災禍の来ない前に海に逃げてしまはうと思つて、一生けんめいに湖水から逃げ路を作り始める。行くみちみちで沿岸の家畜どもを喰ひ荒し、時々休息し、さうして又水路を掘る。いさましい人間どもが大蛇を攻撃してくるが、いつも人間の方が負けてしまふ。しかし大蛇も負傷したり殺されかかつたりして、永い月日を経て漸く海まで水路を通《とほ》す。大蛇の作つた路がシヤノン河になつたといふ話である。
そのえらい人といふのは聖《セント》パトリツクのことださうで、さて聖《セント》パトリツクの伝には、この聖者はローマの奴隷として少年の日を過したアイルランドを愛する心深く、自由
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