お願いです。(港区竹芝小学校六年 ○○○○)
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 子供らしい率直な言葉で、世の中の大人のだれが読んでも、どうかその鉄フタが盗まれないやうに、生徒さんたちの楽しみにしてゐる水泳が無事に出来ますやうにと祈らずにはゐられない。しかし、さて、ドロ棒がこの文を読むかどうかといふ段になると、鉄クヅを盗むかれらはおそらくこの文を読まないだらうと考へられる。また聞きで私が聞いたところでは、自由労働者たちが一日二百円あるひは二百五十円位の賃金で道路の掃除をしたり焼跡を片づけたりする、さういふ時にその辺に落ちてゐるクヅ鉄を拾つてこれをクヅ鉄買入れの店に持つてゆけば、一日平均三百円ぐらゐのお金に売れるといふ話である。さうすると一ヶ月の賃金と一ヶ月の彼等のホマチが同じ位かそれ以上の収入になるとすれば、彼等がいとも熱心に拾ひ集めるのも無理ではない。かういへば自由労働者たちがよその垣根の内の物まで持つてゆくやうに聞えるが、そんな事はない、彼等は潔白である。ただこの敗戦国の民衆の中にかつぱらひを常習とする専門の人たちがゐて、それは学校の庭の鉄フタに限らず、どこの家の物でも人目がない時には遠慮
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