のない化粧台みたいな棚があつて、小さいタオルのおぼんと櫛やブラシが載せてあり鏡は楕円形のものが掛つてゐた。それから入口の扉に近い壁の小棚には蝋燭立にふとい蝋燭を立てたのが置いてあつた。
その取付《とつつき》の床は一面にじうたんが敷いてあり、細かい赤い花と黒い葉の模様で、小花の薔薇であつたやうに思はれる。そのじうたんを上草履で踏んで右手の壁のまん中にある三尺巾の引戸を開けると、そこが本当のお手水場《てうづば》であつた。西にやや高い窓がずうつと一間だけ通して開いてゐた。泥棒用心に荒い竹の格子があつたやうに思ふ。その窓に向つて応接間寄りの壁に、横に長い六尺の腰掛が壁から壁まであつて奥ゆきは二尺五寸ほどもあつたであらうか、床《ゆか》と同じ赤い小花のじうたんが敷きつめてあり、その真中に孔があつて黒ぬりの円い蓋がしめてあつた、そこで腰かけて用をすますのである。腰かけると右手に硯箱みたいな浅い箱があつて紙が入れてある。左手の壁には軽々とした棚があつて何か横文字の絵入雑誌が一二冊置いてあつたやうだ。
私なぞの思ひ出せない小さい時分にその西洋間とお手水場《てうづば》が新築されたのだから、父がわかくて
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