裕福な家では二十年分ぐらゐは持たせたさうであるが、東京の普通の娘たちはよそゆき十足位、ふだんの十足も持たせればよい、ふだんのはキヤリコでなく木綿の生地であつたやうに覚えてゐる。肌着とお腰、ネルお腰、今も昔も人間にもつとも必要な品で、親切な母親ほどたくさんの数を持たせた。それから手拭五六本、タオル二三枚、出入りの人たちに時々出す手拭は十枚分を一反に巻いたのが三巻もあれば充分である。それに、箪笥の中に入れるのを忘れたが、浴衣五六枚、紺がすり二枚、ちぢみ中形五六枚位は欲しかつた。お重かけは大小とも入用、ちりめんの風呂敷三枚位、ふだん用のメリンスの物三枚ほど、お勝手用木綿の物大小と、四布と五布の木綿風呂敷二三枚。紙は半紙、糊入、封筒、巻紙、花紙、すこし持たせてもかさばる物、そのほかの小物となれば数限りなく、細かく考へるとどうしても七荷のお荷物になるから、考へない方が無事なのである。以上は箪笥の中や小抽斗の中だけで、鏡台の中の櫛道具、油、香水、化粧品いろいろと石けん、針ばこの中の針、糸、へら、鋏、硯箱の中の筆や墨、そんな事を心配してゐると、頭が熱くなる。
かうして書きつけるとひどくかさばるけれ
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