の主人らしい人がその辺を掃除してゐたが、まだ四十ぐらゐの、背の高い清らかな風采の紳士みたいな人で、身なりはばら園のおやぢらしい恰好をしてゐたが、それはまだ借りものらしい姿に見えた。垣根もない路ばたに立つてゐた私はその主人と眼を見合せたので、かるくお辞儀をして、たいそう好いお花でございますねと、素人に対するやうなことを言つた。主人はすこしはにかんだやうに、いや、まだ始めたばかりで、あまり好い花は咲きませんと謙遜した。私は通りすぎようとしてもう一度言つた。そのお花をすこし分けていただけますかしら? どうぞ。いくつ位さし上げませうか? 五つ位、どうぞ、と言つた。主人は腰の鋏をとつて花をきらうとして、すこし躊躇するやうに言つた。これは、お代をいただいて、よろしいでせうか? はあ、けつこうでございます、どうぞ、と私も赤くなつた。のんきらしい顔をしてゐても、その大輪のばらの花を五つ、ただ無心する気はないのであつたが、新しいばら園の主人は代を取るといふことがたいそう骨の折れるむづかしい仕事らしく、それでは、一輪八銭づつ頂きますと言つて、花をきり始めた。さて五十銭銀貨を出すと、おつりをと、彼はポケツト
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