やくのさしみ、よくゆでてさしみのとほりに切る、トマトの時分ならば茄子よりも見た眼に美しい。何もない時には胡瓜、ほそ身のもの、これは田舎みそがよいやうである。
 煮物は季節の野菜何でもよろしい。私たちは東京でも田舎でも煮物は何かしら食べられたやうに思ふ。春は牛蒡、新じやが、さやゑんどう、にんじん。夏から秋には蓮根、小さい玉葱、細いんぎん、さといも、冬ならば大根か小かぶの煮物。たんぽぽは春の野草であるけれど、黒ごまあへがおいしい。秋のずいきは白ごま。
 お汁は豆腐か野菜、何でもけつこう。海辺の人から浅蜊の乾したのを送つて貰つた時、さつま汁の豚肉代りにしたり、豆腐と煮たこともあつて、浅蜊はこんなにおいしい物かと思つてその一袋をたのしみながら食べた。このほか前に言つた肉なしコロツケ、青い葱をすこし交ぜる。豚肉なしの竹の子そぼろ煮、竹の子かにんじんがあれば、細かくきざんで、豚肉代わりに海糠《あみ》か、生節《なまり》ぐらゐ入れる。
 さつまいも、じやがいも、南瓜は煮物でなく、主食の代用にされることが多かつた。じやがいもの残りいもで、指の頭ぐらゐの小つぶの物を捨てずに皮ごと油でいためて味噌をすこし入
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