いなものかしら? 恐らくそのどちらでもなく、まづお正月みたいに、あまりおいしくない料理を愉しくおいしさうに食べてゐればよろしい。その時分に私たちが喜んで食べてゐたものを二つ三つ思ひ出してみよう。
 白米の御飯はしばらくお預けにして、きやべつのお粥でも、あるひはメリケン粉とおからと交ぜた蒸パンでもよろしい。馬鈴薯をマツシユにして、野菜の濃いカレー汁をかけ、ゆで玉子一つを細かくきざんで散らばし、福神漬なぞあしらへば立派な主食になる。(福神漬や、らつきようはあの当時入手できなかつたかもしれない)お魚はみがきにしんのてり焼が一ばん結構だと思ふ、味がそれより落ちるけれど烏賊のわた煮(輪ぎりにしたもの)、鰯のみりんぼし、家庭で生乾にしたもの、ほつけ[#「ほつけ」に傍点]のバタやき、ぢか火で焼いた鯨のビフテキ、塩胡椒でにほひを消せばよろしい。(私のやうにぜつたいに鯨がたべられない人はお精進の油揚のつけ焼で代理させる)、このほかその当時手に入つた魚類を思ひ出すこと。
 茄子のおさしみ、蒸してうすく櫛形に切つたもの、酢みそよりは生醤油の方がおいしい。薬味は何でも手に入るもの。茄子の季節でなければ、こんに
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