あけび
片山廣子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)茘枝《れいし》

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(例)くこ[#「くこ」に傍点]
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 隣家の庭に初めてあけびが生つたからと沢山わけていただいた。私といつしよに暮してゐる山形生れのHは、かねてからあけびは実よりも皮の方がおいしい、皮を四五日かげぼしにしてから細かくきざんで油でいためたのを醤油でゆつくり煮しめて食べるのだといふことをしきりに言つてゐたから、すぐにその料理を作つてもらつた。じつに珍味であつた。ほろにがく、甘く、やはらかく、たべてゐるうちに山や渓の空気を感じた。
 茘枝《れいし》をいためて煮つけたのも甘くほろにがく、やはらかく、そしてもつとふくざつな味で、多少中国料理の感じでもあつた。あの赤黄いろい、ぎざぎざした形からわが国の物らしくは見えず南国の産らしい。母はとてもその茘枝《れいし》の料理が好きであつた。私が大森に住むやうになつてからも時々こしらへたけれど、家の人たちがにがい物を好まないやうで、私ひとりが食べた。この何年にも、どこの垣根にも茘枝《れいし》の生つてゐるの
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