猥褻独問答
永井荷風
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)懼《おそ》れ
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)世界中|最《もっとも》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)おかま[#「おかま」に傍点]
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○猥褻なる文学絵画の世を害する事元より論なし。書生猥褻なる小説を手にすれば学問をそつちのけにして下女の尻を追ふべく、親爺猥褻なる画を見れば忽ち養女に手を出すべし。懼《おそ》れざるべけんや。
○然らば何を以てか猥褻なる文学絵画といふや。人をして淫慾を興《おこ》さしむるものをいふなり。人とは如何なる人を指せるや。社会一般を指すなり、十人が十人の事をいふなり。然らばここに一冊子あり。これを読みて十中五人はあぢな気を興し五人は一向平気ならば如何《いかん》となす。十中の五人をして気を悪くせしむるものはこれ明《あきらか》に猥褻のものなり。然らば十中の一人独り春情を催したりとせば如何。これ猥褻の嫌ひあるものなり。猥褻の嫌ひあるもの果して全く猥褻なるや否や。凡そ徳を尚《たっと》ぶものは悪の大小を問はざる也。凡て不善に近きものを遠ざ
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