。隣の女の肩にわざと憑《よ》り掛りあるいは窃《ひそか》に肩の後または尻の方へ手を廻して抱くとも抱かぬともつかぬ変な事をするものあり。女の前に立ちて両足の間に女の膝を入れて時々締めにかかる奴あり。これらの例数ふるに遑《いとま》あらず。これ助兵衛の致す処か。飢ゑたるの致す処か。助兵衛は飽きてなほ欲するものをいふなり。飢ゑたるものは食を選ばず唯無暗にがつがつするなり。飽けば案外おとなしくなるなり。
○縁日《えんにち》の夜、摺違《すれちが》ひに若き女のお尻を抓《つね》つたりなんぞしてからかふ者あり。これからかふ[#「からかふ」に傍点]にして何もその女を姦せんと欲するがために非ず。さういふ男は女郎屋なぞに上ればかへつてさつぱりしたものなり。江戸児《えどっこ》の職人なぞにこの類多し。助兵衛にあらず飢ゑたるにもあらずして女をからかふは何の故ぞや。唯面白ければなり。猥褻は上下万民に了解せらるる興味なり。かくの如く平民的平等的なる興味また他に求むべからず。救世軍の日本に来るやまづ吉原の娼妓によつて事をなす。天下|普《あまね》く喜んでその事の是非を論ぜり。当路の官吏しばしば治績を世に示さんとするや必ず文学
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