路地
永井荷風
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)渡船《わたしぶね》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)歌川|豊国《とよくに》
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)あひだ/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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鉄橋と渡船《わたしぶね》との比較からこゝに思起《おもひおこ》されるのは立派な表通《おもてどほり》の街路に対して其の間々《あひだ/\》に隠れてゐる路地の興味である。擬造西洋館の商店並び立つ表通は丁度《ちやうど》電車の往来する鉄橋の趣《おもむき》に等しい。それに反して日陰の薄暗い路地は恰《あたか》も渡船の物哀《ものあはれ》にして情味の深きに似てゐる。式亭三馬《しきていさんば》が戯作浮世床《げさくうきよどこ》の挿絵に歌川国直《うたがはくになほ》が路地口のさまを描いた図がある。歌川|豊国《とよくに》はその時代(享和二年)のあらゆる階級の女の風俗を描いた絵本|時勢粧《いまやうかゞみ》の中《うち》に路地の有様を写してゐる。路地は其等の浮世絵に見る如く今も昔と変りなく細民の棲息する処、日の当つた
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