まなびて傘を携ふべきことけだしやむをえざるなり。ヘルメット帽は驟雨に逢ふ時は笠の代用をなし炎天には空気抜より風通ひて凉しく、熱帯には適したるもの。英国人の工風《くふう》に創《はじ》まるといふ。
○半靴は米国にては人々酷暑の折これを用ゆ。欧洲にては寒暑共に半靴を穿《うが》つものなし。赤皮の靴は米国欧洲ともに夏にかぎりて用ゆるも礼式には避くべきなり。然るに日本にてはフロックコートに赤皮の半靴はきたる人折々あり。これ紋付羽織袴《もんつきはおりはかま》にて足袋《たび》をはかざるが如きものなり。
○洋服はその名の示すが如く洋人の衣服なれば万事本場の西洋を手本にすべきは言ふを俟《ま》たざる所なり。然れども色地縞柄なぞはその人々の勝手なる故、日本人洋服をきる場合には黄《きいろ》き顔色に似合ふべきものを択ぶ事肝要なるべし。色白き洋人には能《よ》く似合ふものも日本人には似合はぬ事多し。黒、紺《こん》、鼠なぞの地色は何人にも似合ひて無事なり。英国人は折々狐色の外套を着たり。よく似合ふものなり。日本人には似合はず。縞柄あらきものは下品に見ゆ。霜降り地最も無事なるべし。
○洋服の形は皆様|御存《ごぞんじ》の通
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