男子の杖におけるが如し。されば婦人にても人の面前にては扇を開きてあふぐ事なし。半開になして半面を蔽ふなぞ形容に用るのみなり。然るに我国当世のさまを見るに、新聞記者の輩《やから》は例の立襟の白服にて人の家に来り口に煙草を啣《くわ》へ肱《ひじ》を張つてパタパタ扇子を使ふが中には胸のボタンをはづし肌着メリヤスのシャツを見せながら平然として話し込むも珍しからず。
○我国にては扇は昔より男子の携持《たずさえも》ちたるものなれど、人の面前にて妄《みだり》に涼を取るものにはあらず、形容をつくらんがため手に持つのみにて開閉すべきものにはあらざるべし。
○メリヤスの肌着は当今の日本人上下一般に用ふる所なり。日本人はメリヤスの肌着をホワイトシャーツと同じもののやうに心得てゐるが如くなれどこれ甚しき誤なり。ホワイトシャーツは譬《たと》へば婦人の長襦袢《ながじゅばん》の如し。長襦袢には半襟をつける。ホワイトシャーツにはカラアをつける。婦女子が長襦袢は衣服の袖口または裾より現れ見ゆるも妨げなきものなり。ホワイトシャーツもまたその如し。然れどもメリヤスの肌着に至つては犢鼻褌《ふんどし》も同様にて、西洋にては如何な
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