裸体談義
永井荷風
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)小新聞《こしんぶん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)殺人|姦淫《かんいん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)きわどい[#「きわどい」に傍点]
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戦争後に流行しだしたものの中には、わたくしのかつて予想していなかったものが少くはない。殺人|姦淫《かんいん》等の事件を、拙劣下賤な文字で主として記載する小新聞《こしんぶん》の流行、またジャズ舞踊の劇場で婦女の裸体を展覧させる事なども、わたくしの予想していなかったものである。殺人姦淫事件は戦争前平和な世の中にも常にあった事であるから、この事だけでは特種な新聞を発行する資料にはなるまいと思われていたからである。およそ世の読者に興味のあるような残忍の事件はそう毎日毎日、紙上を埋めるほど頻々《ひんぴん》として連続するものではない。例えば、日大の学生がその母と妹とに殺された事件、玉の井の溝からばらばらに切り放された死人の腕や脚が出た事などは今だに人の記憶しているくらいで、そう毎日起る事件ではない。目下いずこの停車
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