間々に楽屋の人たちがスケッチとか称している短い滑稽な対話が挿入される。その中には人の意表に出たものが時々見られるのだ。靴磨が女の靴をみがきながら、片足を揚げた短いスカートの下から女の股間《こかん》を窺《のぞ》くために、足台をだんだん高くさせたり、また、男と女とがカルタの勝負を試み、負ける度びに着ているものを一枚ずつぬいで行き、負けつづけた女が裸体になって、遂に危く腰のものまで取る段になって、舞台は突然暗転して別の場面になる。これらはその一例に過ぎない。いずれも戦争前のレヴューにはなくて、戦敗後の今日において初て見られるものである。世の諺にも話が下掛《しもがか》ってくるともう御仕舞《おしま》いだという。十返舎一九《じっぺんしゃいっく》の『膝栗毛』も篇を重ねて行くに従い、滑稽の趣向も人まちがいや、夜這《よば》いが多くなり、遂に土瓶の中に垂れ流した小便を出がらしの茶とまちがえて飲むような事になる。戦後の演芸が下《しも》がかってくるのも是非がない。
 浅草の劇場では以上述べたようなジャズ舞踊の外に必ず一幕物が演ぜられている。
 戦争後に流行した茶番じみた滑稽物は漸くすたって、闇の女の葛藤《かっ
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