急流に、古代の水道《アクワデク》の断礎の立っている風景を憶い起させた。
来路《らいろ》を顧ると、大島町《おおじままち》から砂町《すなまち》へつづく工場の建物と、人家の屋根とは、堤防と夕靄とに隠され、唯林立する煙突ばかりが、瓦斯《ガス》タンクと共に、今しも燦爛《さんらん》として燃え立つ夕陽の空高く、怪異なる暮雲を背景にして、見渡す薄暮の全景に悲壮の気味を帯びさせている。夕陽は堤防の上下一面の枯草や枯蘆の深みへ差込み、いささかなる溜水《たまりみず》の所在《ありか》をも明《あきらか》に照し出すのみか、橋をわたる車と人と欄干の影とを、橋板の面に描き出す。風は沈静して、高い枯草の間から小禽《ことり》の群が鋭い声を放ちながら、礫《つぶて》を打つようにぱっと散っては消える。曳舟の機械の響が両岸に反響しながら、次第に遠くなって行く。
わたくしは年もまさに尽きようとする十二月の薄暮。さながら晩秋に異らぬ烈しい夕栄《ゆうばえ》の空の下、一望際限なく、唯黄いろく枯れ果てた草と蘆とのひろがりを眺めていると、何か知ら異様なる感覚の刺戟を受け、一歩一歩夜の進み来るにもかかわらず、堤の上を歩みつづけた。そして遥
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