葡萄棚
永井荷風

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)浅草《あさくさ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時|肱掛窓《ひじかけまど》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「候」のくずし字、161−10]
−−

 浅草《あさくさ》公園の矢場《やば》銘酒屋《めいしゅや》のたぐひ近頃に至りて大方取払はれし由《よし》聞きつたへて誰《たれ》なりしか好事《こうず》の人の仔細らしく言ひけるは、かかるいぶせき処のさまこそ忘れやらぬ中《うち》絵にも文《ふみ》にもなして写し置くべきなれ。後に至らば天明時代の蒟蒻本《こんにゃくぼん》とも相並びて風俗研究家の好資料ともなるべきにと。この言あるいは然《しか》らん。かの唐人《とうじん》孫綮《そんけい》が『北里志《ほくりし》』また崔令欽《さいれいきん》が『教坊記《きょうぼうき》』の如きいづれか才人一時の戯著《ぎちょ》ならざらんや。然るに千年の後、今なほ風流詩文をよろこぶもの必ずこれを一読せざるはなし。われさきに
次へ
全7ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
永井 荷風 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング