梅雨晴
永井荷風
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)渋江抽斎《しぶえちゅうさい》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一子|優善《やすよし》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「にんべん+就」、第3水準1−14−40]
−−
森先生の渋江抽斎《しぶえちゅうさい》の伝を読んで、抽斎の一子|優善《やすよし》なるものがその友と相謀《あいはか》って父の蔵書を持ち出し、酒色の資となす記事に及んだ時、わたしは自らわが過去を顧みて慚悔《ざんかい》の念に堪《た》えなかった。
天保の世に抽斎の子のなした所は、明治の末にわたしの為したところとよく似ていた。抽斎の子は飛蝶《ひちょう》と名乗り寄席《よせ》の高座に上って身振|声色《こわいろ》をつかい、また大川に舟を浮べて影絵芝居を演じた。わたしは朝寝坊夢楽という落語家の弟子となり夢之助と名乗って前座《ぜんざ》をつとめ、毎月師匠の持席《もちせき》の変るごとに、引幕を萌黄《もえぎ》の大風呂敷《おおぶろし
次へ
全12ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
永井 荷風 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング