《かんきゃく》する訳には行《ゆ》くまい。桜には上野の秋色桜《しゅうしきざくら》、平川天神《ひらかわてんじん》の鬱金《うこん》の桜《さくら》、麻布|笄町長谷寺《こうがいちょうちょうこくじ》の右衛門桜《うえもんざくら》、青山|梅窓院《ばいそういん》の拾桜《ひろいざくら》、また今日はありやなしや知らねど名所絵にて名高き渋谷の金王桜《こんのうざくら》、柏木《かしわぎ》の右衛門桜、あるいはまた駒込吉祥寺《こまごめきちじょうじ》の並木《なみき》の桜《さくら》の如く、来歴あるものを捜《もと》むれば数多《あまた》あろうが、柳に至ってはこれといって名前のあるものは殆どないようである。
 隨の煬帝《ようだい》長安《ちょうあん》に顕仁宮《けんじんきゅう》を営《いとな》むや河南《かなん》に済渠《さいきょ》を開き堤《つつみ》に柳を植うる事一千三百里という。金殿玉楼《きんでんぎょくろう》その影を緑波《りょくは》に流す処|春風《しゅんぷう》に柳絮《りゅうじょ》は雪と飛び黄葉《こうよう》は秋風《しゅうふう》に菲々《ひひ》として舞うさまを想見《おもいみ》れば宛《さなが》ら青貝の屏風《びょうぶ》七宝《しっぽう》の古陶器を
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