らしい固有な趣があるような気がするであろう。
 もし今日の東京に果して都会美なるものがあり得るとすれば、私はその第一の要素をば樹木と水流に俟《ま》つものと断言する。山の手を蔽《おお》う老樹と、下町を流れる河とは東京市の有する最も尊い宝である。巴里《パリー》の巴里たる体裁《ていさい》は寺院宮殿劇場等の建築があれば縦《たと》え樹と水なくとも足りるであろう。しかるにわが東京においてはもし鬱然《うつぜん》たる樹木なくんばかの壮麗なる芝山内《しばさんない》の霊廟《れいびょう》とても完全にその美とその威儀とを保つ事は出来まい。
 庭を作るに樹と水の必要なるはいうまでもない。都会の美観を作るにもまたこの二つを除くわけには行《ゆ》かない。幸にも東京の地には昔から夥《おびただ》しく樹木があった。今なお芝田村町《しばたむらちょう》に残っている公孫樹《いちょう》の如く徳川氏|入国《にゅうごく》以前からの古木だといい伝えられているものも少くはない。小石川久堅町《こいしかわひさかたまち》なる光円寺《こうえんじ》の大銀杏《おおいちょう》、また麻布善福寺《あざぶぜんぷくじ》にある親鸞上人《しんらんしょうにん》手植《
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