《しばひかげちょう》に鯖《さば》をあげるお稲荷様があるかと思えば駒込《こまごめ》には炮烙《ほうろく》をあげる炮烙地蔵というのがある。頭痛を祈ってそれが癒《なお》れば御礼として炮烙をお地蔵様の頭の上に載せるのである。御厩河岸《おうまやがし》の榧寺《かやでら》には虫歯に効験《しるし》のある飴嘗《あめなめ》地蔵があり、金竜山《きんりゅうざん》の境内《けいだい》には塩をあげる塩地蔵というのがある。小石川富坂《こいしかわとみざか》の源覚寺《げんかくじ》にあるお閻魔様《えんまさま》には蒟蒻《こんにゃく》をあげ、大久保百人町《おおくぼひゃくにんまち》の鬼王様《きおうさま》には湿瘡《しつ》のお礼に豆腐《とうふ》をあげる、向島《むこうじま》の弘福寺《こうふくじ》にある「石《いし》の媼様《ばあさま》」には子供の百日咳《ひゃくにちぜき》を祈って煎豆《いりまめ》を供《そな》えるとか聞いている。
 無邪気でそしてまたいかにも下賤《げす》ばったこれら愚民の習慣は、馬鹿囃子《ばかばやし》にひょっとこの踊または判《はん》じ物《もの》見たような奉納の絵馬の拙《つたな》い絵を見るのと同じようにいつも限りなく私の心を慰める
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