の小娘が映画の変り目をねらつて、アイスクリームやら菓子煎餅やらを呼びながら売り歩くのを、友田は早くも呼び留めて、蜜柑を買ひ、「どうです一ツ。」と云つて、膝の上に手を組んでゐる女に渡した。

 映画館を出ると短い秋の日はもう夕方近くになり、あたりの電灯は一際《ひときは》明く輝き渡るにつれて、往来《ゆきき》の人の賑ひもまた一層激しくなるやうに思はれた。
「どうです。お茶でも飲みませんか。」
「えゝ、有難うございますけど、今日はだまつて出て参りましたから。」
「さうですか。それぢやまた此の次の日曜日に。約束して下さい。いゝでせう。」
「はい。」
「お宅は新小岩でしたね。」
「はい。」
「それぢや国鉄でお帰りですね。」
「はい。」
「浅草橋でお乗りなら、私はお茶の水の方ですから、そこまでお送りしませう。」
 あくる日会社で顔を見合したが、友田は黙つて知らぬ顔をしてゐると、女の方もそれと察したらしく何知らぬ風をしてゐる中、いつか会社のひける時間になつた。
 友田は大急ぎで一歩《ひとあし》先に外へ出て電車に乗り秋葉原の乗替場《のりかへば》で後から女の来るのを待ち受け、其姿を見るや否や、いきなり近寄
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