町中の月
永井荷風
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)灯火《とうくわ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)小説|春暁八幡佳年《しゆんげうはちまんがね》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ、折り返して3字下げ]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)たま/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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灯火《とうくわ》のつきはじめるころ、銀座尾張町の四辻で電車を降《おり》ると、夕方の澄みわたつた空は、真直な広い道路に遮られるものがないので、時々まんまるな月が見渡す建物の上に、少し黄ばんだ色をして、大きく浮んでゐるのを見ることがある。
時間と季節とによつて、月は低く三越の建物の横手に見えることもある。或はずつと高く歌舞伎座の上、或は猶高く、東京劇場の塔の上にかゝつてゐることもある。
街路の上はこの時間には、夏冬とも鉛色した塵埃に籠められ、一二町先は灯火の外何物も能くは見えないほど濛々としてゐる。その為でもあるか、街上の人通りを見ると、誰一人明月の昇りか
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