ュージ』。ゾラの『坑夫ゼルミナル』。ブラスコ・イバネスの『五月の花』の如きをその一例とす。象徴詩家が散文の著作には怪異の体裁をとれるもの多し。これらは初学者の学びやすきものに非《あらざ》れば例外として言はず。
一 およそ小説の作風抒情を主とするもの、叙事に重《おもき》を置くもの、客観的《かっかんてき》なるもの、主観的なるもの、空想的なるもの、写実的なるもの、千態万様《せんたいばんよう》、一々説明しがたしといへども、その価値は唯作者の人格にありといはば一言《いちごん》にして尽くべし。
一 人誰しも若き時は感激しやすく、中年となれば感激次第に乏しくなる代り、世の中の事|明《あきらか》に見ゆるやうになるものなり。されば小説家たるものその年齢に従ひて書きたしと思ふものを書くがよし。文壇の風潮たとへば客観的小説を芸術の上乗《じょうじょう》なるものとなせばとて強《し》ひてこれに迎合《げいごう》する必要はなし。作者|輙《すなわ》ちおのれの柄《がら》になきものを書かんとするなかれ。さりとていつもいつも十八番《じゅうはちばん》の紋切形《もんきりがた》を繰返せといふにはあらず。人間|身体《からだ》の組織も
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