》けのした東京の言葉じゃ内閣|弾劾《だんがい》の演説も出来まいじゃないか。」
「そうとも。演説ばかりじゃない。文学も同じことだな。気分だの気持だのと何処の国の託だかわからない言葉を使わなくっちゃ新しく聞えないからね。」
唖々子はかつて硯友社《けんゆうしゃ》諸家の文章の疵累《しるい》を指※[#「てへん+二点しんにょうの適」、第4水準2−13−57]したように、当世人の好んで使用する流行語について、例えば発展[#「発展」に丸傍点]、共鳴[#「共鳴」に丸傍点]、節約[#「節約」に丸傍点]、裏切る[#「裏切る」に丸傍点]、宣伝[#「宣伝」に丸傍点]というが如き、その出所の多くは西洋語の翻訳に基くものにして、吾人《ごじん》の耳に甚《はなはだ》快《こころよか》らぬ響を伝うるものを列挙しはじめた。
「そういう妙な言葉は大抵東京にいる田舎者のこしらえた言葉だ。そういう言葉が流行するのは、昔から使い馴れた言葉のある事を知らない人間が多くなった結果だね。この頃の若い女はざっと雨が降ってくるのを見ても、あらしもよい[#「あらしもよい」に丸傍点]の天気だとは言わない。低気圧だとか、暴風雨だとか言うよ。道をき
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