元八まん
永井荷風

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)砂町《すなまち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)その日|深川《ふかがわ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「螢」の「虫」に代えて「火」、第3水準1−87−61]
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 偶然のよろこびは期待した喜びにまさることは、わたくしばかりではなく誰も皆そうであろう。
 わたくしが砂町《すなまち》の南端に残っている元八幡宮《もとはちまんぐう》の古祠《こし》を枯蘆《かれあし》のなかにたずね当てたのは全く偶然であった。始めからこれを尋ねようと思立って杖を曳いたのではない。漫歩の途次、思いかけずその処に行き当ったので、不意のよろこびと、突然の印象とは思立って尋ねたよりも遥に深刻であった。しかもそれは冬の日の暮れかかった時で、目に入るものは蒼茫《そうぼう》たる暮烟《ぼえん》につつまれて判然としていなかったのも、印象の深かった所以《ゆえん》であろう。
 或日わたくしは洲崎《すさき》から木場
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