K当し調和するように発明されたものである。この二つはそのままの輸入でもなく無意味な模倣でもない。少くとも発明という賛辞に価するだけに発明者の苦心と創造力とが現われている。即ち国民性を通過して然る後に現れ出たものである。
こういう点から見て、自分は維新前後における西洋文明の輸入には、甚だ敬服すべきものが多いように思っている。徳川幕府が仏蘭西《フランス》の士官を招聘《しょうへい》して練習させた歩兵の服装――陣笠《じんがさ》に筒袖《つつそで》の打割羽織《ぶっさきばおり》、それに昔のままの大小をさした服装《いでたち》は、純粋の洋服となった今日の軍服よりも、胴が長く足の曲った日本人には遥かに能《よ》く適当していた。洋装の軍服を着れば如何なる名将といえども、威儀風采において日本人は到底西洋の下士官《スウゾフ》にも肩を比する事は出来ない。異《ちが》った人種はよろしく、その容貌体格習慣挙動の凡てを鑑《かんが》みて、一様には論じられない特種のものを造り出すだけの苦心と勇気とを要する。自分は上野《うえの》の戦争の絵を見る度《た》びに、官軍の冠《かむ》った紅白の毛甲《けかぶと》を美しいものだと思い、そして
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