本でもないかと思いついて、箪笥《たんす》の上や押入の中を彼方《あっち》此方《こっち》と覗《のぞ》いて見たが、書物といっては常磐津《ときわず》の稽古本《けいこぼん》に綴暦《とじごよみ》の古いもの位しか見当らないので、とうとう釣ランプを片手にさげて、長吉の部屋になった二階まで上《あが》って行った。
 机の上に書物は幾冊も重ねてある。杉板の本箱も置かれてある。蘿月は紙入《かみいれ》の中にはさんだ老眼鏡を懐中《ふところ》から取り出して、先《ま》ず洋装の教科書をば物珍しく一冊々々ひろげて見ていたが、する中《うち》にばたりと畳の上に落ちたものがあるので、何かと取上げて見ると春着の芸者姿をしたお糸の写真であった。そっと旧《もと》のように書物の間に収めて、なおもその辺の一冊々々を何心もなく漁《あさ》って行くと、今度は思いがけない一通の手紙に行当《ゆきあた》った。手紙は書き終らずに止《や》めたものらしく、引き裂《さ》いた巻紙《まきがみ》と共に文句は杜切《とぎ》れていたけれど、読み得るだけの文字で十分に全体の意味を解する事ができる。長吉は一度《ひとたび》別れたお糸とは互《たがい》に異なるその境遇から日一日
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