に、その夜《よ》から風邪をひいて忽《たちま》ち腸窒扶斯《ちょうチブス》になったのだという医者の説明をそのまま語って、泣きながら釣台の後《あと》について行った。途法《とほう》にくれた蘿月はお豊の帰って来るまで、否応《いやおう》なく留守番にと家《うち》の中に取り残されてしまった。
 家の中は区役所の出張員が硫黄《いおう》の煙と石炭酸《せきたんさん》で消毒した後《あと》、まるで煤掃《すすは》きか引越しの時のような狼藉《ろうぜき》に、丁度|人気《ひとけ》のない寂しさを加えて、葬式の棺桶《かんおけ》を送出《おくりだ》した後と同じような心持である。世間を憚《はばか》るようにまだ日の暮れぬ先から雨戸を閉めた戸外《おもて》には、夜と共に突然強い風が吹き出したと見えて、家中《いえじゅう》の雨戸ががたがた鳴り出した。気候はいやに肌寒くなって、折々勝手口の破障子《やぶれしょうじ》から座敷の中まで吹き込んで来る風が、薄暗い釣《つるし》ランプの火をば吹き消しそうに揺《ゆす》ると、その度々《たびたび》、黒い油煙《ゆえん》がホヤを曇らして、乱雑に置き直された家具の影が、汚れた畳と腰張《こしばり》のはがれた壁の上に動
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