》に等しい希望の光も全く消えてしまったのかと思うと実に堪えられぬ悲愁に襲われる。兄の蘿月に依頼しては見たもののやっぱり安心が出来ない。なにも昔の道楽者だからという訳ではない。長吉に志を立てさせるのは到底|人間業《にんげんわざ》では及《およば》ぬ事、神仏《かみほとけ》の力に頼らねばならぬと思い出した。お豊は乗って来た車から急に雷門《かみなりもん》で下りた。仲店《なかみせ》の雑沓《ざっとう》をも今では少しも恐れずに観音堂へと急いで、祈願を凝《こら》した後に、お神籤《みくじ》を引いて見た。古びた紙片《かみきれ》に木版摺《もくはんずり》で、
[#お神籤の図(fig50556_01.png)入る]
お豊は大吉《だいきち》という文字を見て安心はしたものの、大吉はかえって凶《きょう》に返りやすい事を思い出して、またもや自分からさまざまな恐怖を造出《つくりだ》しつつ、非常に疲れて家《うち》へ帰った。
九
午後《ひるすぎ》から亀井戸《かめいど》の竜眼寺《りゅうがんじ》の書院で俳諧《はいかい》の運座《うんざ》があるというので、蘿月《らげつ》はその日の午前に訪ねて来た長吉と茶漬《ちゃづけ
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