調でこれだけ言って、深く煙草の煙を吸い込んだ。
「え」と菊枝は、声に出しては言わなかったけれども、そんな風な表情で、人なつこい眼を父の方に向けた。
「おめえ、本当《ふんと》に試験を受げんのだごったら、みっしり勉強しなげえなんねえんだ。」
「ほだげっとも……」
 菊枝は、父親のあまりに当て外れたこの言葉に、なんと答えていいのか解《わか》らなかった。
「汝《にし》あ、家にいでは、とっても勉強なんか出来ねえんだから、山さ来て勉強しろ。山さ書物持って来て……汝あ伐る分ぐれぇ、父《ちゃん》が伐っから、汝あな一生懸命に勉強しろ。」
 父親のこの言葉は、菊枝に取って涙含ましかった。それは、あまりに温かい、涙含ましい言葉であった。
「ほだげっとも……ほだげっとも……」
「何、構うごとねえ。家の人達はあの通りみんな不賛成だげっと、俺だけは、汝《にし》を百姓にしたぐねえと思って……」
「爺様《じんつぁま》や継母《おが》さんは、(家のごどは考えねで、自分ばり楽するごと考えでる)って言うげっとも、俺は稼いだって大したごとも出来ねえから、何が外のごって……」
「そんなごど……汝《にし》あも仲々難儀だ。汝あの実母
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