ん坊まで奪った。完全に奪っていった。そして、彼らは朝田の命令で、朝田の待っているホテルへ彼女を連れていこうとするのだった。――しかし、黒い服の仲間は彼女があまりひどく暴れたため、朝田の待っている江東ホテルヘは連れていけなかった。その代わり、彼女を近くの他のホテルへ連れていった。
 そこのホテルは牢獄《ろうごく》のように頑丈だった。女中はみんな白い服を着ていた。黒い服を着た下男が幾人もいた。彼女は大勢の手で、ある一室に投げ込まれた。――どこからか夫の声がしてきた。赤ちゃんの泣く声もする。眠っていたのが、あんなに乱暴されたので目を醒ましてしまったのだ。――彼女は朝田が来ないうちに、どうかして逃げ出さねばならないと思った。
 そのうちに、黒い服の下男と白い服の女中とが、どかどかと入ってきた。――彼女を朝田の部屋へ連れていくのに相違ないのだ。彼女は抵抗した。暴れ狂った。――しかし、相手は多勢だ。彼女を他の部屋へ運び出すと、裸にしてそこの真っ白いベッドの上に革紐《かわひも》で固く縛りつけた。彼女はもはや、そのまま朝田の蹂躪《じゅうりん》に任すよりほかに仕方がなかった。
 ところが、思いがけもなく
前へ 次へ
全31ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング