、小さな感謝の塊になっていた。
「松島さん、あなたは、失礼な言い分かもしれないが、ひどく困っていやしないかね?」
「…………」
 彼女は頷《うなず》くようにお辞儀をした。
 自動車は白い土埃《つちぼこり》を上げ、乾燥し切った秋の空気を切って日照りの街中を走った。
「困っているんだったら、だれかの世話になってもいい気はないかね?」
「…………」
「あんたはそれほどの美貌で、相当の教養もあって……しかし、女の人が自分一人でやっていくということはなかなか大変なことだろうからな。……あんたが再婚をしてもいい気持ちがあるのなら。それよりむしろ……」
「なにしろ、子供があったりするものですから」
 彼女は、いくらか顔も赤くしていた。
「子供があったって、それは構わん。子供があるにつけても、再婚をするより、まあちゃんと一家を持たしてもらって、世話になったほうがどれほどいいかしれん」
「…………」
 彼女は朝田の話を横道に逸《そ》らし得る自信を持てなかった。失礼な! 失礼な! と心の中で叫びつづけながら、彼女は黙りつづけた。
「運転手! ちょっと、江東《こうとう》ホテルへ回ってくれ」
「あら! そちら
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