知れるのが怖くて、表門から出さずに裏門から運んだり、瀕死の怪我人なのに、ちょっと怪我をして病院へ行ったけれども心配はいらないとか、死んでいるのにまだ治る見込みがあるような顔をするんでしょ? それはあなたのほうには都合のいいことでしょうけれど、こちらではそのために、一生涯というものまるで中途半端な感情を持たせられますわ。わたし、ほんとに信じ切れませんわ。どうしても、松島が死んでしまったとは思われないんです。いまにその辺から帰ってくるような気がして」
「わたしのほうでは、かえってそんな風に思っていただいて、一度に気を落とされないようにと思ったものですから」
「いいえ! あなたのほうでは、他の職工さんたちに知られるのを恐れているんです。それくらいのことは、わたしにだって分かります」
「もっとも、それもあります。しかし、そのことはあなたにまで隠そうとは思ってはおりませんのです。こうして何もかも有体《ありてい》に報告いたしましたうえで、国家のためと思って黙っていていただきたいと、口止料というようなものを持ってまいっているのです。社長のほうからわずかばかりですが、こうして包んで寄越しました。……国
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