本当はあなたが、松島にいられたんでは具合が悪いので、どこかへ行ってもらったんでしょう」
「いいや! 本当に亡くなられたんです。これはわずかばかりですが、工場のほうからの遺族|慰藉料《いしゃりょう》というわけで、お香典なのですが、まあ、これを何よりの証拠と思っていただきたいんです」
 監督はそう言って、彼女の前に封筒を出した。
「まあ! それが松島の死んだ証拠だというんですか? どうして死体をひと目見せてはくれないのでしょうね」
「それはさきほども申しましたように、とてもひどかったものですから、お目にかけたらいつまでもいつまでも目に残ってお困りだろうと存じまして、いっそのことお骨にしてからお目にかけたほうがよかろうということに……、みなの意見だったものですから」
「でも、わたしは見なければ信じられませんわ」
「わたしのほうでは実を申しますと、最初に少しばかり怪我をして、それが原因でだんだん悪くなって亡くなったようにお知らせしたかったのです。なるべく、びっくりさせ申したくないと存じまして」
「どうして本当のことをおっしゃってはくださらないんでしょうかね? あなたのほうでは他の職工さんたちに
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