んとそんな風に思い詰めてきていた。
工場に慣れていないからとて、そんなへまなことをする人ではない! 殺られたのだ!――と彼女は信じた。しかし、不思議に彼女は涙も出なかったし、悲しいとも思わなかった。底の底では判然とそれを信じ切っていないのだった。むしろ、いまに帰ってくるに相違ないとさえ思っていたのだった。
その晩遅くなってから、十一時過ぎに、工場の監督が彼女を訪ねてきた。それが工場の監督と分かると、彼女は先手を打った。
「松島の死体は、いったいどうなっているんでしょうね?」
「…………」
監督は黙ってお辞儀をした。
「怪我をしたのなら、どうしてその時すぐに知らせていただけなかったのか、それがわたしにはどうしても分かりませんわ」
「実は、すぐお知らせするはずだったのですが、あまりひどかったものですから、かえってお目にかけないほうがよかろうということになりまして、すぐそのまま病院のほうへ……」
「まるで品物ですのね。あんまりじゃないでしょうか? あんまりですわ! それで、死んだのは本当なんでございますか?」
「まったく、お気の毒ともなんとも……」
「本当のことをおっしゃってください。
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