也。其夜飯塚にとまる。温泉あれば湯に入て宿をかるに、土坐に莚を敷てあやしき貧家也。灯もなければ、ゐろりの火かげに寐所をまうけて臥す。夜に入りて、雷鳴、雨しきりに降て、臥る上よりもり、蚤蚊《のみか》にせゝられて眠らず持病さへおこりて消入斗になん。」
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これが芭蕉の眼に映じた飯塚辺の農家――たぶん農家だろうと思いますが――の有り様であります。そのような、貧しい農家の有り様は、今にして、東北地方の暗鬱な空気が感じられます。そのような暗鬱な生活の中にある生活は、真山青果氏も『南小泉村』の中で、如実に言っています。
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「百姓ほどみじめ[#「みじめ」に傍点]なものは無い。取分け奥州の小百姓はそれが酷《ひど》い、襤褸《ぼろ》を着て糅飯《かてめし》を食つて、子供ばかり産んで居る。丁度、その壁土のやうに泥黒い、汚い、光ない生涯を送つて居る。地を這ふ爬虫《むし》の一生、塵埃《ごみ》を嘗《な》めて生きてゐるのにも譬《たと》ふれば譬へられる。からだ[#「からだ」に傍点]は立つて歩いても、心は多く地を這つて居る。」
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青果はこう言っている
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