るから出ろ!」
伝平はどうかすると、無理に酔《よ》っ払《ぱら》って、高木の家へそんなことを言って行くことがあった。
「南部馬がなんだって言うんだえ? 糞面白くもねえ! 今日は談判があるんだぞ!」
伝平がそう怒鳴りながら門を這入って行くと、高木は座敷の障子を開けて、縁側へ出て来るのが常だった。
「談判があるど? 馬を返すって言うのか? いつだって構わねえ。今日にでも返してもらうさ。それから金の方も一緒に……」
「おっ! 旦那様! 今日はどうも少し酔っ払ってしまって……」
伝平はそう言って、すぐもう折れてしまうのだった。
「談判があるなら聞こう。」
高木はしかし睨《にら》むような眼をして言うのだった。
「談判など何もねえんでがす。ただそれ、旦那が、俺から馬を取り上げて、どこか他所《よそ》へやるっていうような噂もあるもんだから、それで酔っ払い紛れにどうも……」
「順《おとな》しい者にあ、儂だって、鬼にはなれねえぞ。併し、伯楽の方で、馬が……」
「旦那様! 旦那様の気持ちは、俺、底までわかってるから。」
伝平はそう言って、幾度も頭をさげながら、逃げるようにして帰ってしまうのであった。
前へ
次へ
全17ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐左木 俊郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング