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 併し、伝平は、四十を過ぎても、やはり、しがない暮らしで、自分の持ち馬というものが出来なかった。それに、体力の方も酷く落ちてしまって、すぐ疲労を感ずるようになっていた。女房のスゲノも、五人かの子供を産んで、何もかももう渇《か》れきってしまっているようであった。伝平が力にしているのは、最早《もはや》、伜《せがれ》の耕平だけであった。
「耕平! 汝《にし》あ早く立派な稼人《かせぎて》になんなくちゃいけねえぞ。俺等はもう駄目だからなあ。早く立派な馬でも飼うようになって……」
 父親の伝平は、ときどきそんなことを言うのであった。
「お父《ど》う! 俺、鉄道の、砂利積みに行きてえなあ。鉄道の砂利積みに出て稼ぐど、四月《よつき》か五月《いつつき》で、馬一匹は楽に買えるから。」
 耕平はそう言って、最早、青年達の中へ飛び出して行きたがっているのだった。
「それさあなあ。金は取れるかも知れねえけど、貨車の上さ立ったりして乗ってるらしいが、危ねえようだなあ。幾ら金になったって生命には換えられねえんだから、やはり、見合わせた方がよかんべぞ。」
 父親の伝平はそう言って、耕平が砂利貨車で
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